笑う門には福来る

2016年10月に女の子(ちびさん)を出産した新米ママ。現在はタイ在住。ちびさんとの日常と漫画・テレビ・音楽について好き勝手に書き綴るブログ。

『カルテット』脚本家・坂元裕二〜脚本家から読み解くドラマ②〜

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『カルテット』が始まるときからずっと書きたかったこの記事。もっというと、去年の『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』のときから、いつか書こうと思っていたので、かなり長い間温めていた記事になります。

 とはいっても、『カルテット』がかなり話題になっている今、坂元さんの凄さを記した文章は世の中に溢れかえっています。それでもやっぱり自分の「好きだ」という気持ちをまとめておきたい。そんな思いでこの記事を書くことにしました。

という訳で、「脚本家から読み解くドラマ」シリーズ第2弾では、『カルテット』脚本家の坂元裕二さんを取り上げたいと思います。

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脚本家・坂元裕二さんとは

坂元さんの脚本家としての経歴は、30年前に遡ります。1987年、19歳で第1回「フジテレビヤングシナリオ大賞」を受賞。これは、野木亜紀子さんも受賞されたものですね。これの第1回大賞が坂元裕二さんだったのです。

その4年後に『東京ラブストーリー』の脚本を執筆。ここから数々の有名ドラマの脚本を手がけることになります。

これまでの主な作品

連続ドラマ

  • 東京ラブストーリー(フジテレビ・1991年)
  • 翼をください!(フジテレビ・1996年)
  • あなたの隣に誰かいる(フジテレビ・2003年)
  • ラストクリスマス(フジテレビ・2004年)
  • 西遊記(フジテレビ・2006年)
  • トップキャスター(フジテレビ・2006年)  
  • 太陽と海の教室(フジテレビ・2008年)
  • Mother(日本テレビ・2010年)
  • それでも、生きてゆく(フジテレビ・2011年)
  • 最高の離婚(フジテレビ・2013年)
  • Woman(日本テレビ・2013年)
  • 問題のあるレストラン(フジテレビ・2015年)
  • いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう(フジテレビ・2016年)
  • カルテット(TBS・2017年)

映画

  • 世界の中心で、愛を叫ぶ(2004年)
  • ギミー・ヘブン(2006年)

上記は一部抜粋になります。それでもコンスタントに作品を世に送り出しているのが凄いですね。しかも、そのほとんどがオリジナル作品です。個人的には、西遊記も坂元脚本だったことに驚かされました。

数々のヒットドラマを手がけてきた坂本さんですが、転機になったのは初めて日テレドラマを担当した『Mother』じゃないでしょうか。今までは、局がフジテレビだったこともありラブコメディを多く描かれてきましたが、このときにネグレクトを題材にした社会派ドラマを発表し、話題になりました。 

 

会話劇の魔術師

 坂元裕二さんの脚本と言えば、その会話の面白さにあると思います。

『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』では、最終回の15分が全てファミレスでの会話で終わるという異例の展開。

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そういえば『最高の離婚』においても、前半はコミカルでテンポよく話が進んでいくが、後半は主人公4人のうち誰かの長い独白が始まったり、4人での演技勝負だったり、というパターンが印象的でした。

もちろん最新作『カルテット』でも、それは遺憾なく発揮されています。前半の一見無駄に見える4人の会話ですが、それらのひとつひとつが物語の後半に向かって繋ぎ合わされていって、見事に伏線が回収されていくのです。

なんで、そんなエピソード思いつくんだろう?ということもしばしば。『カルテット』でいえば「からあげにレモン」から、不可逆性や夫婦のすれ違いまで表現できてしまうとはビックリ。坂元さんの頭の中を一度覗いてみたいくらいです。

 

随所に散りばめられる名セリフ

会話劇と繋がるところもあるんですが、各キャラクターの発する言葉の面白さ、美しさも坂元脚本の魅力です。人の本質をついた名言の数々を一部ご紹介します。 

 

最高の離婚

男が子供だから、女はこうなるの。 妻って結局、鬼嫁になるか泣く嫁になるかの二択しかないんだよ。 

「浮気はやめて」とか、「嘘はやめて」とか、負けてる方は正しいことばっかり言って責めちゃうんだよ。正しいことしか言えなくなるんだよ。正しいことしか言えなくなると、自分がバカみたいに思えるんだよ。

男はプラモデルが好きで女はお人形が好きなんだよね、女は男に完成品を求めて男は女に未完成を求める。

 

問題のあるレストラン

あたしいっつも心に水着着てますよ。おしりとか触られても全然何も言わないですよ。おしり触られても何にも感じない教習所卒業したんで。痩せろーとかヤラせろーとか言われても笑って誤魔化せる教習所も出ました。免許証お財布にパンパンです。

男の人って自分より頭良い女見ると、“女は怖い”って言うんですよねぇ

 

いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう

大丈夫、あたしは雨と雨の間を走って通れるから  

 

カルテット

泣きながらご飯食べたことある人は 生きていけます

こんなにおもしろくないもの
「おもしろい」って言うなんて
おもしろい人だなって よくわからなくて 楽しかったの

片想いって1人で見る夢でしょ
両想いは現実、片想いは非現実
そこには深い川がある

 

描かれる女性が強く美しい

坂元さんの作品では、「女性」を題材に取り上げられることが多いです。『Mother』では母と娘、『Woman』ではシングルマザー、『問題のあるレストラン』では女性だけ(一人ゲイもいるけど)で作るレストラン等、様々な壁や問題、葛藤もあるけど、それに負けずに立ち向かっていく強い女性を描いているのが印象的です。

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また、天使のごとく、ピュアで汚したくない女の綺麗な一面が描かれることもしばしば。

例えば『問題のあるレストラン』第6話で、二階堂ふみ、高畑充希、松岡茉優の3人が、公園でシューベルトの《ピアノソナタ第21番変ロ長調D960》を聴くシーン。いがみ合っていた3人の絆が芽生えるシーンなんですけど、演出も相まって、すっごくキラキラして美しく見えました。

また、『カルテット』第8話のすずめの片思いの様子も、美しかったです。叶わない恋だと分かりながら、それでも相手を好きで、相手を思うがためにその人の片思いをさりげなく応援する様子が、とても切なくて儚げで。満島ひかりの演技も秀逸でしたね。 

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その代わり、男性陣はちょっと抜けている人が多い印象。『カルテット』の家森さんなんかは、その代表ですよね。『最高の離婚』では、理屈っぽくて神経質な光生、浮気グセの治らない諒なんかも、なかなかに酷い男でした。でも憎めないんですよね。ほんと坂元作品のキャラクターってみんな魅力的(結局、そこに至るという)。

 

おすすめ作品の紹介

それでは、坂元さんが脚本を担当された中で、おすすめの作品を紹介していきたいと思います。数が多くて紹介しきれないので、かなり厳選しています。

Mother

松雪泰子演じる小学校教師が、母親にゴミ袋に入れられて捨てられている生徒を発見。その子に対し「あなたの母親になる」と決意し、擬似親子として逃亡生活を送る物語。

芦田愛菜ちゃんの出世作としても有名ですね。当時愛菜ちゃんは5歳で、「7歳」が条件のオーディションの要件から外れているにも関わらず、その才能を見出され脚本が変更されたというエピソードも。それくらい、松雪泰子と芦田愛菜の「親子」関係に泣かされました。愛菜ちゃん(=つぐみ)の健気な台詞に何度涙したことか。

また、実母の田中好子、養母の高畑淳子と松雪泰子との「親子」関係も物語に深みを与えた要素のひとつです。特に田中好子の演技が素晴らしい。母になった今、この作品を見たら、以前とは違った感想を持つのかもしれません。

 

それでも、生きてゆく

15年前に起きた幼女連続殺人事件の被害者家族と加害者家族の話。前作『Mother』でネグレクトという社会派問題を扱った上での今回のドラマで、坂元裕二という脚本家の凄さを確固たるものにした印象があります。

また、坂元さん自らが、満島ひかりと仕事がしたいということで直々に出演オファーをしたということでも有名です。ここから、『Woman』『いつ恋』『カルテット』と坂元脚本の常連となりました。

被害者家族と加害者家族、それぞれの人生がもう救いようのないくらいどん底ではあるんですけど、満島ひかりと瑛太の演技には、暗さの中に明るさがあるというか、決してハッピーエンドではないけれど、それでも生きてゆく力を感じられる力強い作品でした。本当に名作。

 

最高の離婚

『カルテット』に出会うまで、坂元作品の中で間違いなく一番だと思っていたのがこの作品。瑛太×尾野真千子夫妻、綾野剛×真木よう子夫妻それぞれの夫婦の結婚と離婚を軸に描かれたホームドラマ。『Mother』『それでも、生きてゆく』が重いテーマだっただけに、そのコミカルさに同じ脚本家の作品とは思えないほど。でも、夫婦の会話劇を見ていると、やっぱり坂元節なんですよね。

特に第4話ラストの尾野真千子の独白は秀逸。あと第8話で瑛太と真木よう子が居酒屋で話してるシーンも生々しくてドキドキしました。ただ、せっかく最終話に良い感じにまとまったドラマ版なのに、スペシャル版でモヤモヤしたラストになってしまったのがとっても残念。スペシャル第二弾を望んでるんですが、もう難しいのでしょうか。

 

カルテット

カルテット1

まだ完結していませんが、2017年もはじまったばかりだというのに、既に今年最高のドラマじゃないかと思っています。そもそも坂元脚本×土井演出(「逃げ恥」などを担当)というだけでも期待度大なのに、そこに満島ひかり、松たか子、松田龍平、高橋一生という俳優陣が揃っていて面白くないわけがないんですよね。

4人の織りなす会話は、一見たわいもない世間話や無駄話に思えるのですが、そこには数々の伏線が散りばめられていて、後で「ああ!あの会話がそこに繋がっていたのか!」と感服するばかり。「全員片思いの大人のラブストーリー」と銘打たれているにも関わらず、やっぱりサスペンス?と思わせる各回ラスト。続きが気になって気になって一週間「みぞみぞする」感覚を久しぶりに味わいました。いや、「逃げ恥」ぶりだから案外久しぶりでもないのか。もう一度最初から見返したくなる作品。

 

『Mother』以降の作品で選んでみました。『Woman』も好きですけどね。あと『問題のあるレストラン』は、これ絶対一話削られたよね?というような中途半端なラストだったのが悲しい。あれで作品としての完成度が下がってしまいました。『いつ恋』は脚本に演者がついていけてない気がして、そこまで好きになれなかったんです。

 

おわりに

この記事で坂元裕二さんの脚本の魅力を、少しでも伝えられたでしょうか。いや、もちろん既に知ってるよ、という方がほとんどだとは思うのですが。

緻密な会話劇の面白さ、作品の随所に散りばめられた伏線、物事の本質を突く名セリフ等、坂元脚本の魅力が全て詰まった『カルテット』は、本当に最高傑作だと思います。この作品を超える作品が、また出てくるのでしょうか。今後の坂元作品が楽しみです!

 

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